久留米絣のある暮らし。

kurume kasuri textile

久留米絣の染めと織り

久留米かすりテキスタイル

創製当時は藍染め手織りが一般的だった久留米絣も、化学染料による染色、動力による製織が一般的となりました。

紺と白というシンプルな構成。緻密な柄、曲線、しなやかな織り上がり。これらは藍染め手織りによって作られた生地の魅力です。製品になってからは、洗うたびに藍の灰汁が抜けて色が冴えていき、さらに美しさを増していきます。長い時間をかけて親しむことのできる生地だといえるでしょう。

一方の化学染料は、色持ちと発色の良さが特徴。色味は染料の調合しだいで無限にあり、流行やアパレルのシーズンごとに旬の久留米絣を作り出すことができます。動力機械は効率よく大量の生地を作ることを可能にし、久留米絣の産業化を支えてきました。

伝統を守り伝えていく藍染め手織り。今を生きる生地としてのスピード感をもって、旬の柄を織り出す化学染料と動力織り。それぞれの魅力が、久留米絣に力を与えているのです。

久留米絣伝統的な藍染め手織り。職人歴60年の大ベテランのおばあちゃん。
久留米絣手織りならではの緻密な柄合わせ。これだけの技術を持つ職人さんは今はもう少なくなりました。

染色について

藍染

古来からの植物染料である藍。
藍の葉を乾燥させ、水を加えて3ヶ月ほど醗酵させたものが「すくも」という染料になります。すくもは不溶性のため、水溶性にして染色を可能にする作業を「藍建」といい、「藍がめ」という藍汁をためる大きな壷に、すくもと木灰汁、貝灰、酒、水飴を加え、およそ3週間かけて完全に醗酵させます。藍がめは温度を一定に保つため、土に埋められているのが特徴。醗酵させる間は、一日に一度必ず撹拌し、表面にできる泡や色、藍液を舌で舐め味をみて醗酵の具合を確認します。

久留米絣テキスタイル健康で元気のいい藍の泡はパリっと固い。
久留米絣テキスタイルゆっくりと藍に糸を浸し、引き上げてよく絞ります。

藍が完全に醗酵すれば、染色が可能に。
染め場には4本1組の藍がめが並べられ、濃度の低い藍から高い藍へと糸を浸して染めていきます。藍液に糸をゆっくりと浸し、引き上げ、適度な力で絞ると、空気に触れて酸化した藍が発色し、糸が青色へと変わっていきます。その後、すぐに糸をかめとかめの間にある窪みに叩き付け、括りの際まで染料を染み込ませます。叩き付けることで糸が膨らみ、空気に触れて酸化が即され、色や風合いも良くなるのです。

久留米絣テキスタイルかめの間にある窪みに糸を叩き付け、空気をよく含ませます。
久留米絣テキスタイル濃紺に染め上げるまでに20回〜30回ほど藍液に浸けます。

化学染料

明治時代に輸入された化学染料。
和服から洋服へと庶民のライフスタイルも変化し、久留米絣に求められる色柄も時代に応じて変わっています。

代表的な染料はナフトール染料と反応染料。
長い間主流だったナフトール染料に代わり、現在では反応染料が一般的です。染料の浸透率が良く、染色堅牢度(染色された商品の持つ色の丈夫さを表す数値)も高いのが特徴です。発色も鮮やかで効率よく大量の染色が可能。今に呼応する、新たな久留米絣を作り出すことができるのです。

久留米絣テキスタイル一度に多くの糸が染まり、発色も良い反応染色。
久留米絣テキスタイルビビッドな色のバリエーション。こんなポップな久留米絣も。

挿色

創製以来、紺のグラデーションと白で構成されてきた久留米絣。
そこに色が加わったのは明治35年ごろだといわれています。はじめは赤色を花柄などの一部分に入れるようになり、生地に彩りを与えました。これを「挿色」といい、「摺り込み」という技法で染色されます。摺り込みは括り、染色を行った絣糸を張り台にかけ、配色にしたがって手作業で染料を摺り込んでいくもの。職人が一ヶ所ずつ染色していく、とても手間のかかる作業です。

久留米絣テキスタイル布を巻き染料を染み込ませた棒で糸を挟み、色を摺り込みます。
久留米絣テキスタイル赤と黄色、青のぼかしを摺り込みで表現した久留米絣。

脱色染色

通常の絣は柄部分が白く、地に色が入っているものが一般的です。
これは括りで柄を表し、柄以外の部分を染色する絣ならではだといえるでしょう。先染めの糸を使った場合には括り部分にも配色されますが、防染されていない部分の方が柄部分よりも濃くなります。

脱色染色はその配色を反転させることができます。
はじめに糸束全体(括りをせず)を染色し、その後柄にしたがって括り、脱色剤で括り以外の部分の染料を落とします。すると、柄部分に色、地の部分が白の絣糸が完成します。この工程を経た絣糸で織り上げられた絣は「脱色絣」といい、柄がはっきりと出た立体感のある生地面が特徴です。

久留米絣テキスタイル一度染色した糸を脱色剤に浸け、括り部分以外の染料を落とします。
久留米絣テキスタイル脱色絣。クロス柄の絣糸に脱色染色を用いています。

織りについて

手織り

手織りの機は「投杼機」と「足踏機」に分けられます。
投杼機は伝統的な技法で、タテ糸の開口運動は踏木を足で踏んで綜光を開口させ、投杼でヨコ糸を通し、タテ糸の柄模様にヨコ糸を合わせ、筬を手前にトントンと打ち込みます。この一連の動作を繰り返すことで生地が織り上がります。足踏機は踏木を踏むことで機全体を動かし、杼の行き来も行ってくれます。筬の打ち込み具合や踏木の踏み加減で風合いが変わり、経験によって磨かれていく技術と研ぎすまされていく勘が、生地を精緻に、しなやかにしていきます。

久留米絣テキスタイル伝統的な投杼機。手と足を一定のリズムで動かして織っていきます。
久留米絣テキスタイルこれほど緻密な柄は、機械では織ることができません。

機械織り

動力によって高速で大量の生地を織り上げる機械織り。
久留米絣では生地感を優先し、ヨコ糸を空気や液体の噴射で飛ばす高速のシャットルレス織機ではなく、手織りと同じように杼でヨコ糸を通す、シャットル織機を使用します。これは製織の際に、生地の両端に耳ができるので柄合わせが確認でき、比較的目も緩く、木綿の風合いを生かして織り上げられるためです。手織りのように一人がひとつの機につくことはありませんが、織り子達は機の間を忙しく行き来し、糸の調子や柄合わせに目を光らせています。

久留米絣テキスタイル1人の織り子が4機を担当。柄のズレや糸のほつれを見逃しません。
久留米絣テキスタイル筑後地域に動力織機が導入されたのは昭和9年のこと。